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二子玉川ライズから環境を守る。東京都世田谷区の二子玉川(ニコタマ)では街壊しが進行中である。「二子玉川ライズ タワー&レジデンス」や「二子玉川ライズ オフィス」など東急電鉄・東急不動産ら東急グループの営利目的の再開発によって、二子玉川の貴重な自然と近隣住民の住環境が破壊されている。
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二子玉川ライズ行政訴訟の東京地裁判決(川神裕裁判長)が2012年7月10日13時15分から東京地裁703号法廷で言い渡され、請求が却下された。住民側は不当判決と抗議し、東京高等裁判所に控訴した。

二子玉川ライズ行政訴訟(平成22年(行ウ)第754号)は東京都世田谷区を中心とする住民らが二子玉川東第二地区市街地再開発組合設立認可の取り消しを求めて東京都を提訴した行政訴訟である。二子玉川東第二地区市街地再開発事業(二子玉川ライズ2期事業)は137メートル超の超高層ビルを建設する計画である。

住民側は二子玉川ライズ2期事業が東急電鉄・東急不動産の営利目的の乱開発であり、住環境を破壊し、公益性に欠けるなどと主張した。既に二子玉川ライズ1期事業でビル風や圧迫感などの被害を受けており、住民側の怒りは大きい。

東京地裁判決は内容以前の問題として、言い渡しまでに奇妙な変遷を辿った。裁判所は原告適格の中間判決の言い渡し日を4月24日とした。ところが、直前になって5月31日に延期され、さらに6月28日に再延期され、7月10日に再々延期された。再々延期された判決は中間判決ではなく、本案判決になっていた。だまし討ちのような本案判決の言い渡しに住民側は以下のように批判する。

「原告適格の判断と称しながら、実質的には本案の違法性についての判断にまで踏みこみ、原告等の主張立証の機会を奪って、審理を尽くさないまま、『本件各訴えをいずれも却下する。』という不当な最終判決を言い渡した。」(二子玉川東地区再開発事業差止、認可取消訴訟原告団、弁護団「二子玉川東地区再開発事業差止訴訟上告審及び、同第二地区再開発事業組合設立認可処分取消事件1審判決について」)

原告適格について重要な先例として小田急訴訟最高裁判決(最高裁平成17年12月7日大法廷判決・平成16年(行ヒ)第114号)がある。これは小田急線の連続立体交差都市計画事業認可処分の取消訴訟の判決である。開発や公共事業で生じる周辺住民の健康・生活被害を「反射的」なものに過ぎないとして原告適格を否定し、裁判で争うことすら認めない傾向があった。

これに対して小田急判決では「騒音,振動等によって健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれのある個々の住民に対して,そのような被害を受けないという利益を個々人の個別的利益としても保護すべき」として、東京都環境影響評価(アセスメント)条例の定める関係地域内に居住する者に原告適格を認めた。これによって小田急判決は行政訴訟の原告適格を広げた画期的な判決と評されている。

原告適格についての原告側の主張は二段論法を採っている。まず小田急訴訟最高裁判決(最高裁平成17年12月7日大法廷判決・平成16年(行ヒ)第114号)に基づいて環境影響評価の際に定められた関係地域内に居住する者に原告適格を認めるべきと主張した。

関係地以外の住民についても二子玉川ライズ2期事業の権利侵害の特殊性から原告適格を認めるべきと主張した。小田急判決で問題となった鉄道の高架化は渋滞解消という一応の公共性がある一方で、被害は騒音・振動という単純なものであった。そのため、事業地からの距離で原告適格を区切ることは分かりやすい。

これに対して二子玉川ライズは東急電鉄・東急不動産の営利事業で公共性はない。被害は生活・健康が脅かされる複合被害であり、単純な距離で区切れるものではない。また、二子玉川ライズは街の在り様を変えてしまうものであり、住民以外の訪問者にも原告適格を認めるべきであるとする。

東京都側は原告適格を否定する。そこでは二子玉川ライズによる大気汚染や景観破壊、風害などの被害を否定するのではなく、住民側の主張する被害には二子玉川ライズ1期事業による被害が含まれているとして否定する。

東京地裁判決は小田急訴訟最高裁判決に依拠して原告適格を判断したと述べている。小田急判決は行政訴訟の間口を広げた判決である。その小田急判決に依拠しながら、原告適格否定の結論になることは奇妙である。小田急判決を機械的に適用するならば東京都環境影響評価条例の定める関係地域内に居住する者に原告適格が認められなければならない。

二子玉川2期事業の関係地域は世田谷区玉川、上野毛、鎌田、野毛、瀬田、中町、用賀、等々力、大蔵など広範囲で、地域内に居住する原告も多数存在する(判決書9頁)。関係地域の定めを無視して原告適格を否定した結論には再開発は無害で善とのドグマがあった。

判決は「都市再開発による市街地再開発事業は、道路や都市高速鉄道のような都市施設の整備に関する事業とは異なり、その事業が施行されることにより整備される建築物又は建築敷地それ自体から相当範囲にわたる大気の汚染等が生ずることは通常考え難い」と主張する(判決書73頁)。

そのために小田急判決のように画一的に地域で原告適格を判断するのではなく、「健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれがあることを要する」として具体的な被害の有無を判断した。その上で大気汚染や風害などの各被害について「著しい被害を直接的に受けるおそれがある事実を直ちに認めることはできない」との論理で原告適格を否定した。

判決について三つの観点から論評する。

第一に再開発では広範囲の環境被害が生ずることは通常考え難いとの判決の前提の誤りである。これは日照・眺望・景観破壊だけでなく、コミュニティーの分断や災害の危険性などの複合的な被害を起こしている二子玉川ライズの実態を無視している。開発優先で進められた土建国家の価値観を引きずっている。

現実には再開発は街の姿を変えてしまう。「都内とは思えぬのどかな佇まいを見せていた」二子玉川は「再開発事業ですっかり姿を変えた」と紹介される(「二子玉川が再開発で“郊外”から卒業」ケンプラッツ2011年11月10日)。これは生活者に著しい影響を及ぼす問題である。

第二に小田急判決と異なり、具体的な被害の有無から原告適格を判断したことの問題である。これは消極・積極の両面から評価できる。

まず消極的評価である。判決が小田急判決と異なる判断をした理由は、再開発では鉄道や道路建設と異なり、広範囲の環境被害が生ずることは考え難いとの前提があるためである。これが誤りであることは既に述べたとおりである。故に誤った前提から導き出された結論も正しくない。

形式的には小田急判決に依拠しながらも、再開発を例外扱いとすることで、原告適格の間口を広げた小田急判決とは間逆の結論を出した。小田急判決の抜け穴が作られてしまった。住民側としては悪しき先例を残さないためにも最高裁まで闘うことが宿命付けられる。

次に積極的評価である。被害の有無を具体的に判断して原告適格を判断するという考え方自体は積極的に評価できる側面がある。小田急判決は原告適格の間口を広げた画期的判決である。その歴史的意義は大きい。しかし、小田急判決で切り捨てられた原告も存在する。東京都環境影響評価条例の定める関係地域内に居住するか否かで原告適格が定まり、地域外の住民の原告適格は否定された。

ここでは東京都環境影響評価条例での関係地域の定め方が適切かという問題が残る。これは裁判所が自ら原告適格を判断するのではなく、外部指標に委ねたために起こる問題である。この外部指標に委ねて自分では考えない傾向は日本の裁判所の根本的な病弊である。

行政訴訟や国家賠償訴訟では行政裁量や立法裁量を尊重することで、裁判所が自ら判断することを放棄している。一般の民事訴訟でも契約書や遺言書があれば、そこで思考停止してしまい、契約書や遺言書が適正に成立したものか判断を避けがちである。

このような傾向を踏まえるならば、具体的な被害の有無から原告適格を判断する考え方そのものは、裁判所が自分で考えるという点で積極的に評価できる。小田急判決よりも原告適格の間口を広げる可能性を持った論理である。

勿論、現在の日本の裁判所の傾向を踏まえるならば、裁判所が自分で判断することは原告適格を否定する方向に利用される可能性が高い。実際、それによって二子玉川ライズ行政訴訟判決は原告適格を否定した。しかし、裁判所に人権の砦としての使命を果たさせるためには、裁判所に自分で判断させることは避けては通れない道である。

第三に被害の具体的な判断である。たとえば風害では「高層建築物が建築された結果、強い風が吹き、歩行に支障を来すなどの指摘がされ、世田谷区から第二地区組合に対して風対策の指導がなされていること」を認めた(判決書89頁)。しかし、結論では「ビル風により健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれがあるという事実は、本件全証拠によってもこれを認めるに足りない」と否定した(90頁)。

ここでは著しい被害とは何かが問題になる。どれほど被害が生じていても、「著しい被害ではない」とのロジックで否定できてしまう。法律解釈と比べて事実認定は客観性が確保されていると考えられがちであったが、最近では裁判所の事実認定の恣意性が問題として注目されている。

たとえば北本中学校いじめ自殺裁判の東京地裁判決(平成19年(ワ)第2491号損害賠償請求事件)では、同級生から「きもい」と悪口を言われ、下駄箱から靴を落とされ、「便器に顔をつけろ」と言われるなどの事実がありながら、「自殺の原因になるようないじめがあったとは認められない」と判断した。

二子玉川ライズ問題では再開発や建築紛争関係の裁判の情報収集が中心になることは当然であるが、他の訴訟(二子玉川ライズ差し止め訴訟、二子玉川ライズ住民訴訟)でも被害は提示できているにもかかわらず、判決では泣かされ続けてきた。事実認定の恣意性というテーマで横断的に様々な裁判を分析することも発想の転換になるだろう。
http://www.hayariki.net/7/1.htm
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